「え?」
まさか話し掛けられるなんて思わなかったから、返事なんて用意してない・・・。
「傘、持ってたから・・・」
私が言葉に詰まってると思ったからなのか、少年はもう一度私に話しかけてくれた。
「あ、一人です」
「そっか・・・誰か待ってるんだと思った」
何故か嬉しそうに、ほっとしたように彼が言った。
『さっき、私を呼んだ?』
そんな事を言いそうになったが、あまりにも馬鹿らしい質問なので慌てて口をつぐんだ。
「僕はね・・・待ってたんだ」
『何を?』と言いかけた側から、彼がそのまま言葉を繋げる。
「誰かが振り向いてくれるのを」
「え?」
「ここに・・・僕はここにいるんだよ、って」
言いながら彼は嬉しそうに微笑んだ。
何故かその微笑みは、どこか蜃気楼を感じさせる。
手を伸ばしてその身体に触れたら、きっとそのまま泡雪のように消えてしまいそうな・・・。
ふと彼がしきりに、何かを大事そうに両手で持ち変えているのに気付いた。
「ねぇ、なんか大事そうに持ち替えてるみたいだけど・・・」
「ん?知りたい?」
彼はそっと、握っていた手を開いた。
「砂、時計・・・?」
その意外さに驚いてしまった。
「・・・この砂は、僕の17年分の命なんだ」
彼がまた、寂しそうに呟いた。
「僕、病気がちでずっと寝込んでたんだ・・・この砂も全部落ちると何かが終わる気がして怖かったんだ」
両手に持ち替えていたのは、砂が全部落ちてしまわないようにしていたからだったのだ。
この時はその砂時計が特別な力を持っている、なんて全然予想もしてなかった。
しかも、この時計にすくわれる事になろうなんて、、一体誰が予想しただろう。
「それに・・・ずっと寝込んでたから恋する事もなかったんだ」
なんて返事をしていいかわからなかったので、彼の言葉をそのまま待った。
「それなのに、あぁもう死ぬのかなぁって考えたら、なんか悲しくなって・・・」
今ここに立っている彼はとても元気そうに見える・・冗談かなにかなのかな。
「信じないかもしれないけど」
そう言うと、また寂しく笑った
「ただ、あまりにも寂しかったから神様にお願いしたんだ・・・」
「何を?」
「一度でいいから、死ぬ前に僕に、恋をさせてください、って」
すると照れながらまた彼はその砂時計を大事そうに両手で持ち変えた。
「そう祈ったら、これが手の中にあって・・・そして砂が落ち始めたらここにいたんだ」
突然そんな事を言われたから、混乱で返す言葉なんか見つからない。
「でも、誰も気付いてくれなくて・・・貴女が気付いてくれてよかった」
いつの間にか彼の目からは涙がこぼれていた。